椎茸の原木栽培と菌床栽培の違い、正しく知っていますか?

椎茸の栽培方法は大きく分けて2種類あります。

原木栽培(げんぼくさいばい菌床栽培(きんしょうさいばい)です。

この両者の違い、皆さんはご存知ですか?

かなりざっくり説明すると、下記のようになります。

  • 原木栽培とは・・・適度な長さに切った原木(ホダ木)に、きのこ菌を打ち込んで栽培する方法
  • 菌床栽培とは・・・オガクズと米ぬかなどの栄養源を混ぜたて固めた『菌床ブロック』に、きのこ菌を繁殖させて栽培する方法

 

原木栽培(げんぼくさいばい)
菌床栽培(きんしょうさいばい)
左:原木栽培 右:菌床栽培

 

それぞれの特徴を表にまとめました。

原木栽培
  • 栄養源:広葉樹の原木
  • 栽培にかかる期間:約2~5年
  • 栽培環境:山の林内やハウスが多い
  • 栽培法の特徴:環境にやさしい。天候や季節に大きく左右され、安定供給が難しい
  • 生産品の特徴:風味が強いと言われている。形は揃いにくい
  • 主な販売形態:乾燥椎茸が多い
菌床栽培
  • 栄養源:広葉樹のオガクズと米ぬかなどを練り固めた菌床
  • 栽培にかかる期間:約3~4ヶ月
  • 栽培環境:施設栽培、ハウス栽培
  • 栽培法の特徴:施設栽培が出来るため大量生産に向き、安定供給しやすい
  • 生産品の特徴:形が揃いやすく、見た目が良い
  • 主な販売形態:生椎茸が多い

 

もちろん全てがこの表に当てはまるわけではなく、例えば原木栽培でも施設栽培に取り組んでいらっしゃる農家さんもいますし、菌床栽培の椎茸だって風味が強いものはたくさんあります。

あくまで目安としてご覧ください。

 

という事で今回は、2種類の椎茸の栽培方法『原木栽培』と『菌床栽培』について紹介させていただきます。

 

目次

原木栽培と菌床栽培の違い

椎茸の原木栽培と菌床栽培について、様々な面から比較しました。

 

原木椎茸と菌床椎茸の生産量比率

原木栽培で育てた椎茸は『原木椎茸(げんぼくしいたけ)』、菌床栽培で育てた椎茸は『菌床椎茸(きんしょうしいたけ)』と呼びます。

原木椎茸と菌床椎茸の生産量には、大きな差があります。

下表をご覧ください。

  生鮮 乾燥品
菌床椎茸 65198.4t
(約92%)
254.8t
(約11%)
原木椎茸 5913.5t
(約8%)
2159.4t
(約89%)
合計 71111.9t 2414.4t

2019年調査データ|e-Stat政府統計の総合窓口 特用林産物生産統計調査から抜粋

 

実は、市場に出回る生椎茸の9割以上は、菌床栽培品が占めているんです。

一方、乾燥椎茸はこれが逆転して、約9割が原木栽培品となっています。

これは、菌床栽培の方が安定供給しやすく、原木栽培は天候や季節に左右されやすいという事が関係していると思います。

 

次は生椎茸と乾燥椎茸の総量を比較してみましょう。

椎茸のサイズによって乾燥後の重量が変わるため計算が難しいのですが、仮に乾燥後の重量が平均で生鮮の10分の1として、下記のように総量を求めました。

 

(乾燥品×10)+生鮮品=総量

 

その結果が下表です。

菌床椎茸 原木椎茸 合計
67746.4t
(約71%)
27507.5t
(約29%)
95255.9t

 

菌床椎茸と原木椎茸の比率は7:3となりました。

この数値は正確ではありませんが、少なくとも菌床椎茸の方がずっと多いのは間違いないでしょう。

 

栽培上の違い

原木栽培をしていた生産者さんが、菌床栽培に切り替える事が多くなってきています。

その要因の一つとして、栽培にかかる日数の違いが挙げられます。

菌床栽培は、培地作りから椎茸が収穫できるまで最短3ヶ月ですが、原木栽培は木の伐採から発生まで2年も掛かってしまいます。

収益化できるまで2年・・・これは、かなり大変なことが想像できますよね。

また、菌床ブロックは片手で持てるくらいの重さですが、原木は1本1本がとても重いです。

中には、露木一人では持ち上げられない原木もあります。

めちゃくちゃ重い原木

太い原木はめちゃくちゃ重い

 

例えば『若い頃なら運べたけど、歳を取ってくると原木を持てなくなる』という事もあるでしょう。

このように、栽培に労力が掛かる事も原木農家が減っている一因です。

 

菌床椎茸と原木椎茸、どちらが良い?

栽培方法が両極過ぎるためか、時々『原木椎茸と菌床椎茸、どちらが良いか?』という議論が巻き起こることがあります。

が、これは不毛というものです。

なぜなら、どちらにも利点があるし、弱点もありますから。

一般的には、原木椎茸の方が味・香りが強く焼き物には最適と言われてきました。

一方、菌床椎茸は逆にクセが無く、きのこ嫌いの子どもでも食べやすいと言われています。

ただ、品種改良によって、どちらもどんどん美味しい品種が生まれてきているので、その差は縮まってきています。

また、形状では菌床椎茸の方が形がきれいに揃いやすいため、スーパーさんや八百屋さん等での販売向き。

形状が揃いやすい菌床椎茸

形状が揃いやすい菌床椎茸

 

一方、冬場の寒さの中じっくり育った原木椎茸は肉厚になり、希少性も併さって『高級椎茸』として取引されます。

肉厚の原木乾燥椎茸

肉厚の原木乾燥椎茸

 

それぞれに”役割”があり、結局どちらも必要な物なんです。

 

販売時に『原木』か『菌床』かを表示しなければならない

現在、椎茸を販売する際は『しいたけ品質表示基準』により、原木・菌床等の栽培方法の表示が義務化されています。

そのため、必ずラベルやポップに原木か菌床の文字が記載されているはずです。

(表示されていなければ違反!)

原木椎茸(げんぼくしいたけ)
菌床椎茸(きんしょうしいたけ)
表示例

 

これにより、消費者はその日食べたい栽培方法の椎茸を、選んで購入することが出来るというわけです。

ぜひ、今度お買い物する際に注意して見てみて下さい。

 

原木栽培の特徴

原木椎茸(げんぼくしいたけ)

原木栽培は、適度な長さに切った広葉樹の原木(ホダ木)に、きのこの種コマを打ち込んで栽培する方法です。

  • 栄養源:広葉樹の原木
  • 栽培にかかる期間:約2~5年
  • 栽培環境:山の林内やハウスが多い
  • 栽培法の特徴:環境にやさしい。天候や季節に大きく左右され、安定供給が難しい
  • 生産品の特徴:風味が強いと言われている。形は揃いにくい
  • 主な販売形態:乾燥椎茸が多い

 

現在、原木栽培を行う生産者さんは減ってきており、原木椎茸は希少品になってきています。
減っている背景には、栽培日数が長く掛かり資金の回収に時間が掛かる事と、重い原木を運ぶなどの労力が掛かる事。

また、原木栽培は天候や気温に左右されやすく安定供給が難しい事などが挙げられます。

比較的栽培が容易な菌床栽培に切り替える農家さんも増えています。

 

原木栽培は森林を守る農業

原木栽培の風景

原木栽培の良い所の一つに、森林を守る農業だと言う事が挙げられます。

『木を伐採するので、環境破壊じゃないの?』と思っている方はいらっしゃいませんか?

そうでは無いんです。

原木を作るために、木を適度に伐採すると森に日光が入ります。

栽培に使った原木は椎茸菌に分解され、やがて土に戻り森の栄養となります。

その栄養と日光で新しい木が育ち、農家さんはまたそこから木を適度に伐採する。

原木栽培は森林のサイクルに組み合わさった、循環する農業法なのです。

知り合いの伊豆の原木農家さんは、『俺達が山を守ってるから伊豆は海も栄養が豊富なんだ』と誇りを持って仕事をしていました。

今後もぜひ残っていってほしい栽培方法だと思います。

 

原木に使用する樹種

日本全国で行われている椎茸の原木栽培ですが、地域により使う原木に違いがあります。

  • 北海道から東北は、ミズナラ
  • 関東~関西位までは、ナラ
  • 中国・四国・九州は、クヌギ

その他にもサクラ、アベマキ、シイなどを使う事もあります。

ちなみに、どの原木を使うかによって栽培の仕方や、生えてくる椎茸の味・見た目・香りが微妙に違うそう。

並べてテイスティングしたいですね!

桜の木の原木椎茸なんて興味津々です。

 

露地栽培とハウス栽培がある

原木栽培は、主に『露地栽培』『ハウス栽培』があり、それぞれ特徴が違います。

ハウス栽培は、その名の通りハウスの中で椎茸を栽培する方法。

雨や雪、風を防ぐことができ、暖房などを入れれば外気温にもあまり左右されず、比較的安定して椎茸が栽培できます。

ハウス栽培

ハウス栽培

 

一方、露地栽培は山の斜面や林内などで栽培する方法です。

こちらは、天候の影響をもろに受けるため、出荷は不安定になりがち。

露地栽培では、生椎茸として安定出荷することは難しいと言わざるを得ません。

ただ、真冬など寒い時期はじっくり育つので肉厚で立派な椎茸になり、高級品として販売できます。

風があたりカサに美しい模様が入る『花どんこ』も、露地栽培ならでは。

茶花冬菇(ちゃばなどんこ)

茶花冬菇(ちゃばなどんこ)

 

代表的な原木の組み方

原木は、工程や産地によってさまざまな組み方があります。

代表的な伏せ込み方法を5つ紹介いたします。

  1. 棒積み
  2. 井桁積み
  3. むかで伏せ
  4. 鳥居伏せ
  5. よろい伏せ

 

1.棒積み

原木栽培:棒積み

原木の中で椎茸の菌糸を成長させている時の組み方。

 

2.井桁積み

原木栽培:井桁積み

椎茸を発生させる際の組み方。平地での栽培に向いている。

 

3.むかで伏せ

原木栽培:むかで伏せ

椎茸を発生させる際の組み方。

交互に斜めに立てかけていく。急斜面などでの栽培に向いている。

 

4.鳥居伏せ

椎茸を発生させる際の組み方。

鳥居の形に組んでいく。

 

5.よろい伏せ

原木栽培:よろい伏せ

椎茸を発生させる際の組み方。

鳥居伏せの中に、更に2本の原木を組む。

 

菌床栽培の特徴

菌床栽培(きんしょうさいばい)

菌床栽培は、オガクズと米ぬかなどの栄養源を練り固めた『菌床ブロック』に、椎茸菌を繁殖させて栽培する方法です。

  • 栄養源:広葉樹のオガクズと米ぬかなどを練り固めた菌床
  • 栽培にかかる期間:約3~4ヶ月
  • 栽培環境:施設栽培、ハウス栽培
  • 栽培法の特徴:施設栽培が出来るため大量生産に向き、安定供給しやすい
  • 生産品の特徴:形が揃いやすく、見た目が良い
  • 主な販売形態:生椎茸が多い

 

菌床栽培の利点は大量生産に向くところ、栽培日数が短いこと(約3~4ヶ月)、施設栽培に向き天候に左右されないで栽培できるため、安定生産・安定出荷しやすいところです。

今日、いつでもどこでも椎茸を買って食べられるのは、菌床栽培技術が発達したおかげと言えるでしょう。

菌床椎茸は原木椎茸に比べて形が揃いやすく、スーパーさんや八百屋さんで販売しやすいという『売る側のメリット』もあります。

原木椎茸の方が風味があり美味しいという方もいらっしゃいますが、特に菌床栽培は品種改良が盛んですので、今や美味しい菌床椎茸もたくさん販売されています。

 

いろいろな形の菌床ブロックがある

椎茸を栽培するための菌床ブロックは、種菌メーカーさんや生産者さんによって色々な形があります。

代表的なものを紹介いたします。

  1. 直方体
  2. 縦型円筒形
  3. 横型円筒形
  4. 直方体(上面栽培)

 

1.直方体

直方体の菌床ブロック

使用している生産者さんも多い、直方体の菌床。

6面あるどの面からも椎茸が生えます。

 

2.縦型円筒系

縦型円筒形の菌床ブロック

この形も良く見ます。

直方体の菌床より小さめで軽く、面積当たりの栽培効率は良いのかもしれません。

 

3.横型円筒形

横型円筒形の菌床ブロック

中国ではこの形の菌床が多いみたいです。

 

4.直方体(上面栽培)

直方体(上面栽培)の菌床ブロック

こちらは直方体の菌床ですが、わざと栽培袋を半分かぶせたままで残し、上面からのみ椎茸が生えるようにしています。

保水効果があるのと、上面からしか生えない為作業効率が良く、また一気に菌床の栄養を使いきらない為、1つの菌床で長い間収穫出来るそうです。

 

家庭で育てられる椎茸栽培キット

今、家庭で栽培できる椎茸栽培キットが流行っているのをご存知ですか?

椎茸菌が蔓延した状態の菌床ブロックが自宅に届き、 1~2週間程度世話してあげるだけで椎茸がニョキニョキ生えてくる楽しいキットです!

栽培キット『しいたけ農園』

栽培キット『しいたけ農園』

自分で栽培すると椎茸がとてもかわいく見えてくるから不思議。

もちろん収穫した椎茸は食べる事ができます。

採れたての椎茸は水分があり、ジューシーでとても美味しいんですよ!

ご興味ある方は、ぜひ挑戦してみて下さい。

 

まとめ

椎茸の原木栽培と菌床栽培の違いについて紹介いたしました。

今記事のまとめです。

  • 原木栽培とは・・・適度な長さに切った原木(ホダ木)に、きのこ菌を打ち込んで栽培する方法
  • 菌床栽培とは・・・オガクズと米ぬかなどの栄養源を混ぜたて固めた『菌床ブロック』に、きのこ菌を繁殖させて栽培する方法
  • 日本の生産量は、生鮮椎茸の9割が菌床栽培品、乾燥椎茸の9割が原木栽培品
  • 原木栽培を辞めて、菌床栽培に切り替える農家さんが増えている
  • どちらも美味しい!

 

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この記事を書いた人

露木 啓(つゆきのこ)のアバター 露木 啓(つゆきのこ) 関東きのこの会 代表

『“キノコ”といったら露木までっ!』
元きのこ問屋の営業マン。
生産者さんからきのこを仕入れ、主に関東のレストランや生協さん、自然食品さんに卸す仕事をしていました。
また『きのこのじかん』という情報発信サイトできのこ記事も書いていました。
今は職業きのこから離れ、趣味としてきのこと付き合っています。
主に土日に散策してきのこを撮ったり。
また、きのこの歌を作詞作曲し歌っています。

・ベーシックきのこマイスター
・ヨコハマきのこ大祭実行委員

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