
11月のある日、地元を散歩していたら、倒木のまわりにびっしりとナラタケが群生しているのを発見しました。
神奈川県秦野市のあたりでは、このナラタケを昔から「足長(あしなが)」と呼び、郷土料理の食材として親しまれているそう。
今回は、せっかくの大量発生に出会えたので、少しいただいて「足長きのこ蕎麦」を作ってみました。
ナラタケとはどんなきのこ?
ナラタケ(楢茸)は、ハラタケ目タマバリタケ科ナラタケ属のきのこで、英語では “honey mushroom(ハチミツのようなきのこ)” と呼ばれます。
美味しく食べられるきのことして古くから親しまれ、各地でさまざまな地方名を持つことでも知られています。
ナラタケの形と生え方の特徴

- かさは黄褐色〜淡い茶色で、中央部に細かい鱗片が集まり、縁には放射状のスジが入る
- ひだは若いうちは白く、成熟するとやや褐色がかる
- 柄は4〜10cmほどで比較的長く、上部に白いツバがある
- 切り株や倒木の根元に、何十本も束になって群生する「株立ち」が特徴
濡れているときは、かさにややぬめりを帯びることもあります。
森の分解者であり、ときに病原菌
ナラタケは枯れ木や弱った樹木に取りつく木材腐朽菌で、地中に黒いひも状の菌糸束を伸ばして生息範囲を広げます。
一方で、生きた木の根に寄生すると「ナラタケ病」と呼ばれる病害を起こすこともあり、果樹や針葉樹などを枯らすこともあります。腐生ランのツチアケビ、オニノヤガラと共生することでも知られ、森の生態系に深く関わるきのこです。
各地で異なる呼び名
ナラタケは地方名の多さでも有名です。
- 北海道・東北:ボリボリ、ボリメキ、サモダシ
- 新潟:アマンダレ、ヤブタケ
- 関東:アシナガ(足長)
- 鳥取:ザーザー
秦野の「足長」という呼び名も俗称の一つ。
これほど多くの名前が存在するのは、ナラタケが全国的に親しまれてきた証といえるでしょう。
余談ですが、私がメンバーとして参加している音楽ユニット「ボリボリズ」は、ナラタケの俗称ボリボリから名付けたものです。
食べる際の注意点
ナラタケは美味しいきのこですが、生のまま食べたり、加熱が不十分な状態で食べると中毒の原因になります。必ず十分に火を通してから食べるようにしましょう。
また、体質によっては大量に食べると消化不良を起こすこともあります。初めて食べる場合や採れたてを調理する場合は、少量から様子を見るのが安心です。
秦野ではナラタケ=「足長(あしなが)」
秦野では昔から、ナラタケのことを「足長(あしなが)」と呼んできました。細長い柄がひょろりと伸びる姿からついた名前だといわれています。
秋になると、一部の地域では足長を採って料理に使う習慣があり、地元の秋の味覚として親しまれてきました。最近では、時期になるとJAはだの直売所「じばさんず」の店頭に並ぶことも。

また、秦野市内のお蕎麦屋さんでは、季節限定で「足長きのこ蕎麦」が提供されています。
提供店舗
- 石庄庵
- 手打そば くりはら


足長きのこ蕎麦は、「ごま油+ナス+ナラタケ+蕎麦」という組み合わせが特徴です。
石庄庵さんの「足長きのこそば」は、秦野市の特産品として選ばれる「秦野ブランド」にも認定されています。
足長きのこ蕎麦を自宅でつくってみた

先日、地元・秦野できのこ散策していた際に、ナラタケの見事な群生を発見!
せっかくなので、一部採取して秦野の郷土料理である「足長きのこ蕎麦」を作ってみることにしました。
1.足長(ナラタケ)の下ごしらえ

一般的に、天然きのこは虫が入っていることが多いため、最初に塩水に浸けて虫出しをします。ただ、今回採取したナラタケは非常に状態が良かったため、水洗いのみで調理しました。
流水でかさや柄についた汚れを落とし、しっかり水気を切ります。
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2.ごま油でナスと一緒に炒める

足長きのこ蕎麦の具材は、基本的にナスのみとシンプルです。
- ナスを薄切りにする
- 鍋にごま油を熱し、ナスとナラタケを一緒に炒める
油ときのこの相性が良く、ここで一気に香りが立ち上がります。
3.そばつゆで煮込む

- 鍋に市販の麺つゆを加え、軽く煮込む
- 別鍋でそばを茹でておく
茹であがった蕎麦に、具材入りのつゆをたっぷりかければ完成です!
お好みで小ネギやミョウガなどの薬味を加えても美味しいと思いますが、今回はあえてシンプルにそのままいただきました。

ナラタケの深いダシと油のコク、ナスの柔らかさが相まって、素朴ながら非常に味わい深い一杯に仕上がりました。
とても美味しかったです!
足長きのこ蕎麦と栃木の「ちたけそば」の共通点
実際に作ってみて感じたのですが、丹沢の足長きのこ蕎麦は、栃木県のソウルフードとして知られる「ちたけそば(乳茸蕎麦)」ととてもよく似ています。
ちたけそばは、栃木県で古くから親しまれている郷土料理で、チチタケ(乳茸)という天然きのこを油で炒め、ナスと一緒に蕎麦つゆで煮込んで仕立てます(「ちたけうどん」もあり)。

共通点
- 天然のきのこが主役
- きのこを油で炒めてからつゆに入れる
- ナスを具材に使う
- その地域のみで食べられている“ご当地蕎麦”
もちろん、ちたけそばの知名度の方が圧倒的ですが、地元・秦野にもこうした「天然きのこ」のソウルフードが存在していたことが嬉しくなります。
ところで、こうした共通点を見ていると、昔から伝わる迷信──
「毒きのこはナスと一緒に炒めると毒が消える」
という話を、ふと思い出しました。
もちろんこれは完全な誤りで、ナスで毒が消えることはありません。
ですが、こうした迷信を生み出した背景には、ちたけそばや足長きのこ蕎麦といった料理が各地で親しまれてきたことが影響していたのかもしれない……なんて考えさせられました。
まとめ
ナラタケは全国でさまざまな呼び名を持つきのこで、秦野では「足長(あしなが)」として古くから親しまれています。
今年は、たまたま見事なナラタケの群生に出会うことができたため、地元の郷土料理である「足長きのこ蕎麦」を作ってみました。
秋に採れる天然きのこを、油とナスと一緒に調理して蕎麦に仕立てるという素朴な食べ方は、どこか懐かしさのある味わいで、地域の食文化の豊かさを感じさせてくれます。とても美味しい一杯になりました!
秦野市内の直売所「じばさんず」やお蕎麦屋さんで足長を見かけたら、ぜひ丹沢の郷土料理・足長きのこ蕎麦を味わってみてください。

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